華麗なるアートのパラレルワールド
コロナ禍で増加した意外なものがある。
オランダの複数の博物館でナチス関連展示品の盗難が増加し、警備をさらに強化しなければならない事態となった(参考)。ヒトラー政権が第二次世界大戦中に獲得した「戦利品」の需要は世界的に高い。
米連邦捜査局(FBI)によれば毎年数十億ドル相当の美術品が行方不明になっている(参考)。
(図表: ヨハン・ゾファニー作 『ウフィツィ美術館 (El tribunal de los Uffizi)』)
(出典: Wikipedia)
歴史の中でも特に戦時中は美術館やショールームが犯罪者の絶好のターゲットとなってきた。コロナ禍がある意味「戦時中」と同様の状態であることを考えればうなずける。
「実在のインディ・ジョーンズ」と称される男性がいる。
去る2003年の米軍のイラク侵攻に先立ち、バグダッドのイラク国立博物館で3度に渡る略奪が起こった。検察官でもあったマシュー・ボグダノス(Matthew Bogdanos)米海兵隊大佐(当時)は自らの判断で即席のチームを編成し、約13,864点に及ぶ美術品の盗難事件を調査した(参考)。これをきっかけにFBIが2004年に美術品犯罪チーム(Art Crime Team)を設立し、史上最大の美術館盗難事件に挑んだ。
(出典: Wikipedia)
世界のアート市場は約 674 億ドルの規模になる(参考)。近年ではその80%以上を中国、アメリカ、イギリスが占めている(参考)。欧米のアート市場が未だコロナ禍に苦しむ中、アジア市場だけは好調だ。アジア市場の玄関口として中心となってきたのが香港である。
昨年(2020年)12月に香港で行われたオークションは若手アーティストの作品が新記録を樹立した一方で高名なアーティストも高値をつけた(参考)。同じくオークション会社のクリスティーズ (Christie’s)が同月に開催した20世紀の香港とニューヨークのリレー・オークションでもアジアの方が米国よりはるかに高値を付けた。
他方で日本のアート産業に目を向ければ、欧米や中国で急激に成長した「現代美術(コンテンポラリー・アート)」中心のマーケットと比べるとその枠に入らないものでも日本人はアートと感じて購入するといった独自の美意識が根付いているようだ。日本における美術品関連の上場企業としてクリスチャン・ラッセンの絵画でも有名なアールビバン株式会社(7523)がある。
アートのオンライン市場も急成長している。
市場規模は2018年には約60億ドルに達した(参考)。世界有数のギャラリーや美術館のコレクション、アート・フェアなどで展示されている作品をオンライン上で閲覧可能にしたサービスや新進気鋭のアーティストの作品を発信するものなどがある。オークション運営のShinwa Wise Holdings(シンワワイズホールディングス)株式会社(2437)も日本発の現代アート・プラットフォーム・ヴェンチャーと包括的提携を発表した。
ただしスイスで毎年開催される世界最大規模のアート・フェアを主催するアート・バーゼル(Art Basel)とUBS銀行が行った調査では、「富裕層」でオンライン・アート市場を利用したことがあると答えたのはわずか4%だった。
オンライン・プラットフォームの出現によってアート購入はより身近になり、裾野を広げた。その一方で従来の伝統的なルートも今後も残っていくことは間違いないだろう。アート市場は2つの異なる世界に分かれて同時進行で進展していくことになりそうだ。
グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮美樹 記す
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「無人」は正義となり得るか?ーパンデミック後のドローンの行方
昨年(2020年)末、米政府が人権侵害を理由としてドローン最大手の中国企業「大疆創新科技(DJI)」に制裁を発動する旨報道された(参考記事)。
DJIが世界の商用ドローン市場シェアに占める割合は70~80パーセントに達している。
DJI社製のドローンはGPSによる位置情報認識による自動回帰、障害物の自動回避や自動追従、故障診断など高精度なフライト・コントロール技術を誇っている。
米国がDJI社に対して制裁を発動した一方で欧州(EU)では様相が異なる。
押収欧州(EU)においては去る2020年来の新型コロナウイルスによるパンデミックにおいて同社の技術が積極的に取り入れられている(参考)。
フランスやベルギーの警察はスピーカーを搭載したDJI社製ドローンを使用してロック・ダウン(都市封鎖)の際のルールに関するアナウンスを放送したり、カメラ搭載モデルを使用したりしてソーシャル・ディスタンスの遵守状況を監視している。イタリア警察も道路の動きの規制監視のためにドローンを使用している。またスペインでは農業用モデルを消毒剤の散布に利用している。
さらにドイツにおいてはドローン武装に関する議論にも進展が見られる。
ドイツでは約7年に渡り無人航空機(UAV)の武装化に関する議論が行われてきた。これまで現与党のキリスト教民主同盟(CDU)とともに賛成の立場に立ってきたドイツ社会民主党(SPU)が昨年(2020年)12月に立場を転換したことでアンゲラ・メルケル(Angela Dorothea Merkel)政権において無人機の武装化解禁は困難であると考えられている(参考)。
これに対して北大西洋条約機構(NATO)事務総長イェンス・ストルテンベルグ(Jens Stoltenberg)が無人機の武装化を後押しするコメントを発したことが報道された(参考)。
そもそも無人航空機(UAV)は人口減少、特にパイロットのなり手の減少という傾向の中でそれに対応するという全体的な枠組みの中で進められてきた(詳細は「IISIAマンスリー・レポート2017年11月号」参照)。
こうしたロード・マップの中で米国による中国(DJI社)に対する制裁が今後どのように進められていくのか。また今次パンデミックにおける新たな利用に見られるように今後さらに他の地域でDJI社製ドローンが様々な場面で活用され、より広く無人航空機、更には無人船といった技術の進歩へと結実していくことになるのか、引き続き注視していきたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す
在宅需要で「ジャム」が人気?
(画像=PIXTA)
今年(2020年)は新型コロナウイルスが私たちの生活に様々な変化をもたらした。4月の緊急事態宣言の際にはいわゆる「宅飲み」「オンライン飲み会」がトレンドとなったことは記憶に新しい。
しかし実は在宅ワークの普及はより健康的な習慣ももたらしていた。新型コロナウイルス感染拡大対策により人々の在宅時間の増加に伴い朝食を摂る人の割合が増加しているという(参考)。
中でも金額ベースで食パン類が前年比約11パーセント増、シリアルが同約41パーセント増と手軽に用意できる朝食関連商品が人気だ。またパンに欠かせないジャム・スプレッド類は3月以降前年比二桁増となっている(参考)。
(図表:マーマレードのジャム)
(出典:Wikipedia)
中でも近年の健康志向と相まって注目が集まっているのは砂糖を使わないオールフルーツジャムである(参考)。通常の砂糖入りのジャムが売り上げを落とした中アヲハタ(TYO: 2830)の「まるごと果実」、スドージャム(未上場)の「100%フルーツ」といった商品は売り上げを伸ばしている。
もともとヨーロッパでジャムは果物の保存食品として家庭で製造・消費がされてきたのに対し日本では明治10年に(当時の内務省 内省)がいちごジャムを作り販売したことに始まるとされる(参考)。こうした発展の違いからか日本農林規格(JAS)では糖度40%以上をジャム類としているのに対し、国際食品規格(CODEX)では65%以上と規定して低糖度を認めていない。日本では低糖度のジャムが生産量の45パーセントを占めており、「甘さ控えめ」が流通している(参考)。
他方でフレーバーでは日本国内のジャムのシェア約85パーセントをブルーベリー、いちご、マーマレードが占めている(参考)。そのため他のフレーバーのジャムは必ずしも開発されてこなかったという。
そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大はフルーツ産業にも多大な影響を与えた。従来観光用や贈答用として栽培された分の需要が落ち込み、特に足の速い桃などでは販売先に苦慮した農家もあった。桃に先立ち上記のような用途で栽培されたさくらんぼが市場に流入し価格が3割ほど下落していたこともこの懸念に拍車をかけた(参考)。
(図表:さくらんぼ(桜桃))
従来保存のきかないフルーツの保存法として活用された「ジャム」。しかし日本ではより甘さ控えめな、フルーツそのままの味わいを求める傾向が強まっている。ブルーベリー、いちご、マーマレード以外のフルーツが「ジャム」としてより求められるようになるかもしれない。
在宅ワークにより朝の時間に余裕が生まれたことによる朝食需要と「健康」を改めて意識する中でジャムは再び卓上の彩りとなるのだろうか。引き続き注視していきたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す
スパイ大作戦「コロナ」の転身 ~地球の謎に挑む~ (IISIA研究員レポート Vol.24)
去る1995年2月24日ビル・クリントン米元大統領が大統領令に署名した。
米国勢の第一世代「写真偵察衛星(photo-reconnaissance satellites)」、コードネーム「コロナ(CORONA)」等と名付けられたシステムが収集した画像情報の機密解除の指示である。
去る1960年から1972年の間に収集された86万枚以上の地表の画像の存在がこれによって明らかになった(参考)。
(図表: コロナ(CORONA)が撮影したフィルムの回収)
(出典: Wikipedia)
「コロナ(CORONA)」衛星は1950年代に開発され、1960年5月に発生したU-2撃墜事件をきっかけにソ連の核兵器を探すために使われ始めた。これが冷戦時代のアメリカによるソ連に対する一連の偵察衛星プロジェクト「コロナ(CORONA)」計画である。
どのようにして収集されたのか。ロケットが宇宙からロールフィルムで撮影し、それをパラシュートで地上に落下させる。地上に着陸してしまえばソ連の諜報機関に見つかってしまうため、その前に空中でアメリカの軍用機がつかまえていた。
そして今この時の画像が「生態学」の世界で第二の人生を歩んでいる(参考)。「生物多様性」や「種の減少」など生態系の謎を解くために世界中の研究者たちが活用しているのだ(参考)。
(図表: 1970年に撮影されたモスクワ)
(出典: National Archives)
これまで森林学者たちは景観(landscape)の変遷を把握するために不正確な地図や昔ながらの樹木の目録(inventory)に頼るしかなかった。それが20世紀のスパイ画像のおかげで「鳥瞰図」(bird’s-eye view)が手に入った。
これによってベトナム戦争中にアメリカの爆弾によって残されたクレーターがどのようにして魚の池になったかを実証したり、第二次世界大戦によって東ヨーロッパの樹木の被覆がどのように変化したかを説明したりできるようになったのだ。
さらに未来の予測に役立てることもできる。「土地利用」に関する現在の決定が数十年後に環境にどのような影響を及ぼす可能性があるのか。ネパールの縮小した湖が今後110年以内に80%の水を失う可能性があると推定して、次に何が起こるかなどを予測することも可能だ。
19世紀に気球を用いた空中写真の撮影を起源とし、現在では人工衛星や航空機などから「地球の表面を観測する」技術のことを「リモート・センシング」(remote sensing)と呼ぶ。
我が国においてもこのような日常的には目にすることができない情報や立ち入ることが難しい場所の情報を得られる衛星データが最近ではAIと融合されたり、ビジネス活用が模索されたりしている(参考)。
機密解除されたコロナ衛星データだが、それでもまだ「手つかずのまま」とも言える状態のようだ。実際に科学者たちがこれまでにスキャンしたのはまだ全体のわずか5パーセントだ。
これからの更なる地球の謎の解明に期待したい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮美樹 記す
超音速ミサイル「ツィルコン」がもたらす未来
ロシア勢が「ツィルコン」の試験発射を行った(参考記事 )。
「ツィルコン」とは超音速ミサイルでその速度はマッハ8(時速1万キロメートル前後)以上の速度で飛行するという。ロシア勢による超音速ミサイルの試験発射は今年(2020年)に入り少なくとも3回目となる。
マッハ8というのがどのような速度かと言えば、ロシア勢から米国勢の国防総省を含む5か所について5分以内で攻撃が可能となる。加えてロシア勢によれば超音速で飛行するミサイル本体の周囲にはプラズマを帯びたガスが発生し「プラズマステルス」と呼ばれる状態となることでレーダーによる接近の探知が非常に難しくなるという。
ロシア勢は「ツィルコン」について数年以内の正式配備を予定している。
(図表:マッハ7到達時のコンピュータ計算による流体解析の等高線図)
これに対して米国勢の連邦議会調査局(Congressional Research Service)は去る11月23日に2019年秋に出した報告書(“Hypersonic Weapons: Background and Issues for Congress”https://fas.org/sgp/crs/weapons/R45811.pdf)をアップデートしロシア勢―と中国勢―の当該兵器における優位性と米国防総省による超音速航空機開発の重要性を強調した。
そのスピードゆえに超音速ミサイルは爆発の為の弾頭すらなくとも相当の爆発を引き起こすことが可能だ。
しかしロシア勢は、米国勢との間の軍備管理における緊張の高まりによっては米国勢近海に配備される潜水艦に超音速核ミサイルを配備しなければならなくなると警告を発している。
実は超高音速ミサイルの試験発射に先立ち今年(2020年)8月にはロシア勢の核兵器についてのある情報公開が行われている。
1961年10月30日、当時のソ連勢がノヴァヤゼムリャにおいて「ツァーリ・ボンバ」の大気圏内核実験を行った。
(図表:実験が行われたノヴァヤゼムリャの位置)
ロシア語で「爆弾の皇帝/帝王」を意味する「ツァーリ・ボンバ」はソ連勢が開発した
人類史上最大の水素爆弾である。その威力は広島に投下された原爆(「リトル・ボーイ」)の3800倍にも及ぶもので、実験では最大威力の半分の50メガトンに制限して行われた(参考)。
(図表:ツァーリ・ボンバの原寸大模型)
長らく機密情報であったこの「ツァーリ・ボンバ」に関する実験映像を、同国の原子力産業75周年を記念して去る8月20日に公開したのである。このドキュメント映像の中では製造に関わる技術的内容には触れられていないものの、その威力をはかり知ることができる。
命中率の精度の向上などにより兵器は小型化の傾向にはあるものの、ロシア勢の「ツァーリ・ボンバ」はいまだに人類最大の核兵器である。
超音速ミサイルと人類最大の核兵器製造技術の脅威の威力を強調することは、自国の軍事力の拡大という主張を裏付けるものとなり得る。
トランプ米大統領はその政権において核兵器の刷新と維持、超音速兵器の開発が進められてきた(参考)。バイデン「新大統領」の誕生によりこの政策に変更がなされ、米ロ勢間の戦略にも変化がもたらされるのか。引き続き注視していきたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す
高専が日本の未来を担う IT都市の特徴とは?(IISIA研究員レポート Vol.23)
エストニア勢は「電子国家」としてよく知られている。
エストニア勢では「e-レジデンシー」と呼ばれる制度があり、エストニア勢に居住しておらずともヴァーチャル市民の権利を取得してオンラインで会社の設立や経営が可能となっている。
コロナ禍におけるコミュニケーション・ツールとしてよく使われたオンライン通話の「Skype」も実はエストニア勢で生まれたサーヴィスであるが、その創業者もスウェーデン勢及びデンマーク勢の出身で本社はエストニア勢には置かれていない。
(図表:エストニア勢)
(出典:Wikipedia)
さらにエストニア勢では行政手続きについても電子化がすすめられ、その99パーセントが「eIDカード」と呼ばれる1枚の身分証明カードで完了する。我が国における「マイナンバーカード」のように国民一人一人に番号が割り振られており15歳以上の国民は「eIDカード」の保持が義務付けられている。
我が国の中でエストニア勢のような業務改善やデジタルIDの発行に向けて動き出したのが熊本県八代市である(参考)。
(出典:Wikipedia)
八代市では市役所とトヨタ自動車九州に勤める職員を中心として「CivicTech」、つまりITを活用して行政の問題を市民が、市民の問題を行政が相互に解決し関係強化を図る取り組みが進められている。
なぜトヨタ自動車がこの取り組みに積極的に参加するのだろうか。
世界的に脱酸素化が進められる中、従来の自動車産業は大きな転換を迫られている。そんな中でトヨタ自動車は「コネクテッド・シティ」構想として静岡県裾野市での「ウーブン・シティ(Woven City)」建設を発表した(参考)。ITを中心とした街づくりに乗り出したのである。
こうした街のIT化の取り組みで必要なのがIT技術者の人材確保である。
実は我が国において実務レヴェルのIT技術者輩出を支えているのは高等専門学校である。トヨタ自動車を含め産業界においては人材獲得が課題である中、高等専門学校から人材を直接に獲得できることは大きな利点となる。
八代市に立ち返ってみれば同市内にはIT等に関わる学科を持つ熊本高等専門学校が八代キャンパスを置いている。現地で高等専門学校卒業の技術者を獲得することはIT化を進める中で重要である。
静岡県裾野市については比較的近い同県沼津市に沼津工業高等専門学校が所在している。
「ウーブン・シティ(Woven City)」建設、そして運用に関わる人材確保という観点からは立地の条件は良いと言えるだろう。
我が国にある高等専門学校の多くが情報学科などITに関わる学科を設置している(参考)。
トヨタ自動車が進める「ウーブン・シティ(Woven City)」のような実験都市建設、また熊本県八代市のような行政のIT化といった動きが今後、高等専門学校を持つ地域から広まっていくことになるのか。引き続き注視していきたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す
掌のコンゴ ~遥かなる国と日本の意外な関係~ (IISIA研究員レポート Vol.22)
米国勢が10年ぶりにコンゴ民主共和国勢(以下、コンゴ勢)との貿易協定を復活させる(参考)。コンゴ勢は再び関税なしで米国勢に輸出できるようになる。
第二次世界大戦中に広島と長崎に投下された原爆のウランの供給源がコンゴ勢であったことはあまり知られていない。
(図表: コンゴ民主共和国)
(出典:Wikipedia)
「コンゴ民主共和国」(DRC、Democratic Republic of the Congo)はアフリカ最大の鉱物資源国で推定25兆ドルの天然資源の宝庫である。
ダイヤモンド、銅、コバルト、それから電子部品(コンデンサー)の材料として使われているコルタン(Coltan)といった鉱石が世界有数の規模で採掘される他、金、石油、亜鉛なども採れる。
マンハッタン計画ではコンゴ勢で採掘されたウランが米国勢へと提供され、原子爆弾が製造された。
米国勢はナチス・ドイツ勢と戦後の冷戦時代にはソ連勢の手に渡るのを防ぐためにコンゴ勢にスパイを派遣するなど、あらゆる手段を講じてウランの供給を確保したのである(参考)。
今回米国勢が復活させるのは去る2000年から施行されている「アフリカの成長と機会法(AGOA)」である。この法律によりコンゴ勢を含むサブサハラアフリカ諸国勢は法の支配、政治的多元主義、労働者の権利、市場経済に関連する一定の原則を尊重すればほとんどの商品を関税なしで米国勢に輸出できるようになっている。
この特権を去る2010年にオバマ前米大統領が人権問題を理由にコンゴ勢から撤回した。
敢えて今このタイミングでコンゴ勢の特権を復活させた米国勢の狙いとは何だろうか。
気になるのがコンゴ勢と中国勢との関係である。近年「コバルト」が電気自動車(EV)革命で最もホットな先物商品の1つとして浮上している。コバルトは私たちが手に持っている携帯電話の中にも入っている。実は世界のコバルト生産量の半分以上をコンゴ勢が担っている(参考)。そしてこのコバルトの供給網をめぐって世界的な競争が起こっている。
(図表:コバルト)
(出典: Wikipedia)
現状コンゴ勢におけるコバルト獲得競争では中国勢が他国に対して圧倒的な差をつけていて、その輸入額は去る2017年の段階で12億ドルに達した。また、コバルトの鉱山も買収している。14ある最大のコバルト鉱山のうち8つが中国勢の所有で同国の生産量のほぼ半分を占める。コバルトの採掘、精製、サプライチェーンに至るまで中国企業が独占しつつある。
ところがこの希少金属の供給不足が電気自動車(EV)の普及において大きな懸念材料となっている(参考)。
今回の米国勢の動きは中国勢に対する牽制の意味があるのかもしれない。
遥かなる地でもう1つの米中戦争が繰り広げられそうだ。
グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮美樹 記す