未来を予測するシンクタンクのリサーチャーコラム

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世界規模で過熱する「アボカド市場」の光と陰

国際マーケットにおける価値の高さからアボカドは「グリーン・ゴールド(緑色の金)」とも呼ばれている。

世界のアボカド市場規模は昨年(2020年)パンデミックの影響によって140億ドルにとどまったものの今年(2021年)は190億ドルまで回復し、来る2027年には195億ドルに達すると予測されている。

(図表:アボカド)

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(出典:Wikipedia

国連食糧農業機関(FAO)は2029年までにアボカドの生産量が2009年の2.5倍以上になると予想している。この成長ぶりの主な原動力は世界的に旺盛な需要と有利な輸出単価だ。これが主要生産地と新興市場の両方で大規模な土地拡張の投資を刺激している(参考)。

アボカド生産はごくわずかな地域や国に集中している。上位10か国で世界の生産量の8割以上を占め、生産量の約7割が中南米カリブ海地域に集中している。

世界最大の生産国で数十億ドル規模のアボカド産業を持つメキシコでは、ビジネス・ポートフォリオの多様化を図る麻薬カルテルまで同産業に参入し、現在では十数の犯罪グループがアボカド取引の支配権を巡って争う事態にまで発展している(参考)。

アメリカに輸入されているアボカドの10個中9個がメキシコ・ミチョアカン産だが現在この州の経済を動かしている貴重なコモディティ(商品)はマリファナでも覚せい剤でもなく、アボカドである。

世界的な需要が価格を上昇させ、南アフリカ、メキシコ、ニュージーランド、スペインにおいて現在アボカドの組織的な窃盗が絶え間なく続いているのである(参考)。

アフリカで圧倒的シェア(4.8万トン)を占めている南アフリカでは、アボカド栽培に人工知能(AI)を活用している。何十年にも渡りアボカドの栽培方法は生産農家の直感や経験に頼ってきたが、AIによって「先回り(proactive)」して作れるようになった。南アフリカの農家にとって最大の課題の一つが「天候」だったが熱波の到来も予測することが可能になった(参考)。南アフリカのアボカド農家の75%も組織犯罪の被害を受けた。

アジアにおけるアボカドの需要も増加している。2010年に中国は2トンのアボカドを輸入した。その6年後には2万5千トン、2020年は6万トンになった。

アジアにおける需要増に備えてニュージーランドでは酪農場をアボカド果樹園に変える農家も増えている。あるシーズンには酪農場(daily farming)の1ヘクタール当たりのリターンが1935ドルだったところ、アボカド果樹園のリターンが1ヘクタールあたり約3万ドルのリターンだったこともある。2030年までにニュージーランド・アボカドは2億8000万ドルの純売上を達成することを目標にしている(参考)。

栽培条件がみかん畑と似ているアボカドは日本のみかん産地でも栽培されている(参考)。現在のシェアは1位の和歌山県が81パーセントを占め、2位は愛媛県が18パーセントとなっている(参考)。

(図表:ワカモレ/メキシコ料理のサルサの一種)

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(出典:Wikipedia

アボカドの発祥の歴史は実は正確には分かっていない。人々がアボカドを食べていたという最も古い証拠として1万年前の中央メキシコのプエブラ(Puebla)の入植地のものがある。

アボカドがアメリカに広まったのは1800年代後半だが、ほとんどのアメリカ人が1980年代に入るまでアボカドの存在を知らなかった。それが1994年の北米自由貿易協定NAFTA)によってメキシコからのアボカドの輸入が自由化され、さらにはメキシコ人がアメリカに住むようになったことでアメリカにおけるアボカドの消費量は急上昇した。1994年当時一人当たり年間500グラム以下だったアメリカ人のアボカド年間消費量は今では3キロ以上となっている。

トランプ前米大統領は在任中NAFTA北米自由貿易協定)のことを「史上最悪の取引(ディール)」と呼んでいたが、アボカドに関していえばアメリカはNAFTAの恩恵を存分に受けている。2016年の調査によればアボカドのサプライチェーンは米国で約19,000人の雇用を創出し、国民総生産(GNP)に22億ドル以上のプラスとなったのだ(参考)。

過熱する世界のアボカド市場がどこまで進むのか引き続き注視して参りたい。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮美樹 記す