未来を予測するシンクタンクのリサーチャーコラム

グローバル・インテリジェンス・ユニットのリサーチャーのコラム。国内外で重要と思われるトピックをテキストまたは動画でお届けします。

海底の世界マーケットを制するのはどこか

海外のウェブサイトにアクセスしたりメール/データをやりとりしたりする時、私たちはそうした過程が宇宙経由で行われている様にイメージしてしまう。しかし実際には「海底ケーブル」が国境を超えたデータ通信量(data traffic)の約99%を占めている(参考)。人工衛星(satellite)よりも海底ケーブルの方が雨や台風の影響を受けることなく迅速かつ安価にデータを移動させることができるからだ。それ以上に優れているのがやりとりできる情報量だ。最新のテクノロジーにおいて海底ケーブルが1秒間で送れる情報量は通信衛星の1000倍以上である。

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図表:海底ケーブルの世界マップ(出典:Wikipedia

世界中に現在およそ406本の海底ケーブルが存在する。すべて繋げると合計で120万キロメートルになる。世界最短はアイルランドのダブリンとUKのホーリーヘッドをつなぐ136キロメートルの「CeltixConnect」ケーブルだ。最長は米国本土とグラム/ハワイをつなぐ「アジア・アメリカ・ゲートウェイ(AAG)」ケーブルで2万キロメートルにおよぶ(参考)。

世界初の海底ケーブルは約170年前にまで遡る。去る1850年にイギリスとフランスをつないだ「ドーヴァー・カレ(Dover-Calais)」ケーブルである。我が国で最初の海底ケーブルはその20年後になる。戊辰戦争直後の1872年(明治4年)にデンマークによって長崎-上海間および長崎―ウラジオストク間に敷設された。当時インド・中国・東南アジアのケーブル事業はイギリスが掌握しロシアのシベリアケーブルが内陸から接続するのを許さなかった。そこでロシアは我が国経由で中国へケーブル事業を進出させようと試みたというのが経緯だ。

海底ケーブルの建設がここ数年で再び急成長している。1990年以来およそ480億ドルが海底ケーブルに投資された。2019年から2021年にかけて50以上の海底ケーブル・プロジェクトが提案されておりその総投資額は72億ドルになるとの試算がある(参考)。

世界で海底ケーブルの建設の主要プレーヤー3社はアルカテル・サブマリン・ネットワークス(フランス)、TEサブコム(スイス)、そして我が国の日本電気株式会社(TYO: 6701)である。その他の海底ケーブル関連の銘柄としては古河電気工業株式会社(TYO: 5801)も世界の多くの国々に海底ケーブルを納入している。

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図表:1858年頃の海底ケーブルの世界マップ(出典:Wikipedia

伝統的に海底ケーブルを所有していたのは主に通信事業主(telecom carriers)だった。それがここ数年で大きく変わりつつある。グーグル、フェースブックマイクロソフト、アマゾンなどのコンテンツ・プロバイダーが新たな海底ケーブルの主要投資主体となりつつある。

海底ケーブルは民間資本であるため必ずしも細かな実態は公にならないところがある。グーグル、フェースブックマイクロソフト、アマゾンは静かに海底ケーブルを購入し続けている(参考)。さらに中国も海底ケーブル事業を推し進めている。海底が米中“角逐”のもう1つの戦場となっているのだ(参考)。

海の底でも展開されている「世界の覇権争い」にも注視して参りたい。

 

            グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst

                                 二宮  記す