パンデミックで開花? カーシェアと「サクラノミクス」
3月を前に待ち遠しくなるのが桜だろう。
我が国の国花であり、平安時代以降「花」と言えば「桜」を意味するまでに人々に愛される花である。
古来人々は桜の開花を待ち焦がれ、花を楽しみ、そして散るのを惜しんだ。
「花は桜木、人は武士」
これは桜の散り際の美しさを表した言葉である。
しかし桜の美しさはやはりそれが咲き誇る様子にあるのではないか。
本居宣長は「敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」という句を残した。
この句は戦時中、国の為に散った多くの若者を悼む歌として記憶されているものの、本居宣長は『玉勝間』において「花はさくら。桜は山桜の葉赤くてりてほそきが、まばらにまじりて、花しげく咲きたるは、またたぐふべき物もなく、うき世のものとも思はれず」と満開の桜の美しさだけを述べている(参考)。
(図表:サクラ)
(出典:Wikipedia)
現代でもなお「花見」の風習が残る。
その経済効果は絶大で、約2か月で6500億円に及ぶという(参考)。
一方で昨年(2020年)以来の新型コロナウイルスによるパンデミックは人々に「自粛」を要請し様々な経済的影響を与えてきた。
昨年(2020年)は感染拡大の初期であったにも関わらず花見関連の消費は2534億円減少し、例年の6割程度にとどまった(参考)。
そんな中で今年(2021年)の花見はどういった経済効果を生むのだろうか。
ここで注目したいのが「カー・シェアリング」である。
そもそもパンデミック以前から特に首都圏を中心として若者の「車離れ」が指摘されていた。
そうした中で遠出をする際などにはレンタカーが多く利用されていたのに対し深夜帯の利用や利用の際の申し込み手続きの煩雑さなどがデメリットであった。
こうした中で注目を集めているのが「カー・シェアリング」である。
昨年(2020年)4月の「緊急事態宣言」発出に伴い外出「自粛」が要請され、観光業に大きな打撃をもたらした。
カー・シェアリング業界でもこの傾向は同様であった。大手カーシェア・サーヴィス「タイムズカーシェア」が属するパーク24グループ(4666)の売上高は2018年11月から2019年10月まで連続して前年比100パーセントを超えていたのに対して2020年3月には前年比89.8パーセント、同年4月は67.8パーセント、同年5月は66.5パーセントと売り上げが落ち込んでいた。
しかしその後2020年6月から9月の売り上げは前年比80パーセント台となり、10月には前年比91.5パーセントと回復を見せた(参考)。
最初の「緊急事態宣言」発出時に比べ「感染対策」を徹底した上での外出は少しずつ戻る中で人が密集する電車などにおける感染リスクへの懸念は強い。
こうした中でいわゆる「3密」をさける方策としてカー・シェアリングの需要が高まっているという(参考)。
「花見」に立ち返れば、昨年(2020年)に「外出自粛」が言われ始めた際には「ドライブ花見」が提案された(参考)。車から見れる桜のスポットは全国各地に存在する。
新型コロナウイルスによるパンデミックがいまだ収束しない中でカー・シェアリング業界から「サクラノミクス」は再び花開くのか。引き続き注視してまいりたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す
炭酸飲料がコロナで消える日―ドライアイス争奪戦が始まった―
我が国の厚生労働省が先月(1月)15日、新型コロナウイルスに対するワクチンの接種及び供給体制について明らかにした(参考)。
我が国政府は年内に7200万人分のワクチン供給を受けることで米ファイザー社と契約したが、同社のワクチンはマイナス75度前後での保管が必要となる。政府はワクチン保冷用のドライアイスを一括調達し医療機関に供給するとしている。
ここで問題となるのがドライアイスである。
上記の温度でのワクチンの輸送にあたってはドライアイスの需要急増が予測される。
すでにワクチンの接種が始まっている米国勢ではワクチンの輸送に伴うドライアイス需要の急増により食品をはじめとする他の物流にも影響が出ることが懸念されている(参考)。
ドライアイスや炭酸飲料に使われる液化炭酸ガスは主に原油の精製過程で副産物としてでる気体の二酸化炭素を利用して作られる。「脱炭素化」などによるエネルギー需要の変化を受けて従前より液化炭酸ガスの原料不足が指摘されていた(参考)。
我が国においても2010年代初頭より液化天然ガスの供給不足が懸念されてきた。これに対処するため、工場で大気中に排出している炭酸ガスを回収することによる液化炭酸ガスの製造(日本触媒)やアンモニア製造過程で複製する炭酸ガスを原料とした液化炭酸ガスの製造(宇部興産)といった方策が模索されてきた。
しかし昨年(2020年)にもこうした傾向は変わらず、同年8月にはドライアイスと同じ液化炭酸ガスを原料とする炭酸飲料の供給への影響が報じられている(参考)。
加えてドライアイス自体の生産について我が国では「ドライアイスメーカー会」に参加する8社のみによって担われている。さらにドライアイスはマイナス79度を上回ると気化してしまうため備蓄にはコストがかかることからそもそも在庫がほとんど存在しない点も特徴である。
政府が年内に供給を予定している7200万人分のワクチンを輸送するためには我が国における年間生産量のおよそ30万トンを数万トン超える量のドライアイスが必要とされる。これまで供給不足分については韓国からの輸入に頼ってきたものの、ワクチンの輸送のために大量のドライアイスを必要とする状況は同国においても同様であり、したがって我が国への輸出量は大幅に減少する可能性があるだろう。
こうした中でワクチンの輸送手段として我が国はどういった手段をとるのだろうか。
パナソニック社はマイナス70℃の環境を最長18日間保持できる真空断熱保冷ボックスの開発を発表している(参考)。冷却にはドライアイスが必要であるものの、同社の従来開発品と比較して保冷能力は30パーセント向上しているという。
低温輸送容器を製造するスギヤマゲン社もドライアイス20キロでマイナス70度以下を約12日間保持できる断熱ボックスを開発している。ワクチンの輸送には通常製造に特殊な機械を必要とする粒型のドライアイスが使われるところ、同社の輸送容器ではより一般的な角形のドライアイスが使用可能である点に特徴がある。
今後ワクチン・マーケティングの進展により、ドライアイスや低温輸送機を巡り更なる需要の高まりと開発が進められることになるのか、引き続き注視していきたい。
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記
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熱狂の仮想通貨-イーサリアムの死角-(IISIA研究員レポート Vol.28)
暗号通貨(仮想通貨)ビットコイン(BTC:Bitcoin)に続きイーサリアム(ETH:Ethereum)の価格が高騰している。
今月(2021年2月)2日に初めて1500ドル(約15万8000円)を突破してから2週間余りで2000ドル(約21万1670円)を突破した(18日朝)。
(図表:イーサリアム)
(出典:GMOコイン)
イーサリアムは去る2013年にウォータールー大学の学生であったヴィタリック・ブテリンにより構想され、2014年にプログラミング言語C++で実装されたクライアントがリリースされた。その後2015年に最初のβ版「Frontier」がリリースされた。
イーサリアムではイーサリアム・ネットワークと呼ばれるネットワーク上でスマート・コントラクト等の履行履歴をブロック・チェーンに記録する。イーサリアムはこの履行履歴の記述のための完全なプログラミング言語を持ち、ネットワーク参加者は内部通貨「Ether」を目当てに「マイニング(採掘)」と呼ばれるブロック・チェーンへの履行履歴の記録を行う。
この「マイニング」はビットコインでも行われているのであるが、これに関連して気になる情報がある。
先月(2021年1月)、ビットコインのマイニングにおいて中国勢、米国勢に次ぐ世界第3位のハッシュ・レート(処理速度)イラン勢が仮想通貨マイニング装置4万5000台を押収し、更にはマイニング施設を閉鎖するなどしたために世界的なビットコイン取引の混乱が“喧伝”されたのである(参考)。
そもそもイラン勢はビットコインを米国勢による経済制裁から免れる手段として活用してきた。去る2019年7月には仮想通貨のマイニングを合法産業とし昨年(2020年)11月には同国勢でマイニングされた仮想通貨を他国勢からの輸入代金の支払いのために交換することを可能とする法改正を行っていた(参考)。
しかし去る(2020年)12月ごろには同国勢において大規模な停電が相次ぎ、これがマイニングによって大量に電力を消費するためであるとの説明がなされた。
そして去る(2021年2月)18日(米東部時間)、米国勢の半導体メーカー大手NVIDIA社がイーサリアム専用のマイニングプロセッサーの発売を発表し、来月にも世界的に発売される旨、中国勢系メディアにより“喧伝”された(参考)。
当該プロセッサーはピーク・コア電圧と周波数が低いためマイニングの電力効率が向上され、さらにこれまでマイニングにおいて既存のゲーム用のグラフィック装置が使われていたことによる既存製品の供給不足を解消する狙いがあるとされる(参考)。
特にこのマイニング専用製品の需要が高いと考えられるのが中国勢である。
中国勢において仮想通貨は基本的に禁止されているものの世界で最も多くマイニングを担っているのも中国勢である。
しかし昨年(2020年)11月には中国勢当局による暗号資産に対する規制の強化によりマイナー(暗号資産の採掘者)がビットコインなどを人民元に交換できず電気料金が払えなくなっている旨“喧伝”された(参考)。更に今月(2021年2月)には中国勢においてイーサリアムのマイニングのためマイナーがゲーミングPCをまとめ買いしゲーマーと奪い合いになっている旨“喧伝”されていた(参考(1) (2))。
こうした状況に鑑みればNVIDIA社のマイニング専用製品は第一に中国勢のマイナー向けであるのではないか。そしてイラン勢におけるマイニングによる電力不足の“喧伝”やイーサリアムの高騰はこうしたマイニング専用商品の発売のためであったとも考えられる。
他方でイーサリアムは「イーサリアム2.0」と呼ばれる大型のアップデートを進めており、このアップデートにおけるアルゴリズムの移行によりマイニングは不要となり、したがってマイニング専用商品はすべて使われなくなる可能性がある。
仮想通貨を巡る更なる転換が中国勢を中心に起こっていくことになるのか。
引き続き注視していきたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す
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